あらすじ

――さらわれた先で、恋と条約を上書きする。 小国アルメリアの外交事務官リゼットは、国境会談で草案を任されるが、上層部は隣国ザハル帝国との停戦条約を“見せ金”で誤魔化そうとしていた。会談の夜、ザハルの若き王カディルは宣言する。「停戦の担保として、彼女を受け取る。人質花嫁として」。 さらい――そう呼ばれた一件は、彼の用意した時間制限つきの契約婚だった。条項は三つ。①六か月の停戦監視を共に行うこと。②互いの命令が国と臣民に背かない限り従うこと。③契約終了時、どちらか一方が拒めば離縁自由。 宮廷は美辞麗句で濁り、条約は細い針で破れる。倉庫の小麦が消え、川の水利権は金に化け、印章は夜に別の意味を持つ。元事務官の彼女は、帳簿・印影・水利図面を武器に“見えない戦場”で戦い、王は“見える戦場”で矛を収める。 やがて祖国から「奪還」の使者が来る。だがそれは救出ではない。条約破りの証拠ごと口を塞ぐ“回収”。リゼットは悟る――最初の敵は外にはいない。 恋は契約の外に置かれた。けれど、六か月が終わる日、条項の余白に新しい一文が加わる。「王妃は、自らの意志で王国と王を選ぶ」。 “人質”の二文字が、最後に線で消されるまで。

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小説を読もう2025/10/02