あらすじ
四〇年後に地上で死ぬ空中勤務者
俺は今、倒れたな。
平衡感覚を無くして、ふっと体の力が抜けた。立っていられなくなったのは、分かった。目の前が暗くなった。そして、倒れた。
左の頬を濡らしているのは、俺の血だろうか。生暖かい。べたつく感じだ。血の臭い。
戦場でもこれ程間近で、血の臭いを嗅いだことは無かった。臭い血だ。血の下の床は、頬に冷たい。
倒れるとき、手で体をかばっただろうか。多分できなかった。頭を床にぶつけた音を、聞いた気がする。頭にもどこにもほとんど痛みを感じないのは、かえって相当ひどい状態なのだろうか。
戦場には、痛くて泣き叫ぶ奴がいた。痛さに、必死に耐えている奴もいた。痛がることさえできない奴は、直ぐ死んでいった。
だるい。体のどこにも力が入らない。手も足も動かせない。どこも痛くはないが、息苦しい。俺は、このまま死ぬのか。
こんなものか、俺の死に様は。こんな幕引きが似合っているか。今更考えても、だな。
俺の人生の頂上は、九九双軽に乗っていたときか。同時に、戦争というどん底でもあったな。どん底の環境で人生の絶頂期、皮肉なのか、それとも、珍しくもないことなのか。人はどんな劣悪な環境にあっても、その中で最高の瞬間を得られるものなのかも知れない。