あらすじ
2002年、春。
高校に入学した僕は、隣の席の友人と『ハッピーレッスン』の話で意気投合した。
アニメ、ゲーム、声優、同人誌──どんな話題でも語り合える友達ができたのが嬉しかった。
その友人に勧められた『Kanon』をプレイした瞬間、僕の世界は変わった。
この感動を誰かともっと共有したい。そう思って触れたのが「WinMX」だった。
最初はISDN回線で、アニメ1話を落とすのに何時間もかかった。
夜通しPCをつけっぱなしにして、翌朝フォルダを開くのが楽しみだった。
やがて、親を説得してADSL回線を導入。
転送速度が数倍になり、世界が一気に広がった。
『ガンダムSEED』の放送が終わって30分もすれば、MXにファイルが並ぶ。
本物と偽物が混ざり合うその混沌こそが、2000年代前半の“ネット”のリアルだった。
スペック不足のCeleron機では限界を感じ、
バイトで貯めたお金で新しいPCを購入。
その日から、僕の部屋は情報の最前線になった。
『Fate/stay night』、『D.C.~ダ・カーポ~』、『デモンベイン』……
名作たちを夜な夜なプレイし、攻略情報を掲示板やP2Pで交換する日々。
当時はまだ「リテラシー」という言葉も広まっていなかった。
ただ、好きなものを広めたいという情熱だけがすべてだった。
2006年、「Winny開発者逮捕」のニュースが流れる。
だが、僕らにとってはもう過去の話だった。
すでに多くの仲間は“うたたね”の非公開サーバへ移り、
より閉じられた、安全な“新しい世界”でチャットと交換を同時進行させていた。
全国の仲間たちとリアルタイムで繋がり、情報の最前線に立つ感覚は、胸が高鳴る体験だった。
さらに「Share」や「Perfect Dark」といった新世代P2Pが現れ、
匿名性はより高く、速度はより速くなる。
一方で外の世界では、“危険”や“違法”の文字が並び、ネットの自由は少しずつ狭まっていった。
それでも僕は、深層の住人として進化の波に乗り、
自分が時代の最先端にいるという誇りと興奮を胸に生きていた。
——あの頃、確かに僕たちは“ネットの最前線”にいた。
匿名で、自由で、誰よりも夢中だった。
誰にも見えないところで、未来のカルチャーの種を撒いていた。
それが、僕たちの“秘密の世界”だった。