あらすじ
東京で夢も居場所も見失った青年・篠原悠は、すべてを置いて北へ向かった。降り立った雪の町で見つけたのは、「住み込みアルバイト募集中」と書かれた一枚の貼り紙。それが、彼の人生を少しずつ変えていく。
小さな喫茶店での日々。湯気の向こうに見える笑顔や、カップを並べるたびに感じる、静かな幸福。そして、ホットミルクを頼む女性・凛との出会い。穏やかな会話が、凍えていた心をゆっくり溶かしていった。
季節が巡り、やがて二人は家族となる。笑い声のある食卓、眠る子どもたちの寝息、そのすべてが、かつての自分にはなかった“幸せ”だった。
しかし、凛の何気ないひとことが、長いあいだ閉ざしていた心の扉を叩く。
ーー「いつか、あなたのご両親にも会ってみたい」ーー
逃げるように出た故郷。置き去りにした時間と向き合うため、二十年ぶりに悠は帰る決意をする。
再び立ったあの玄関で、こぼれた言葉は、たったひとつ。
「……ただいま」
「……おかえり」
失った時間を抱きしめるように、家族の温もりが、過去の痛みを優しく包み込む。これは、“帰る”という勇気と、本当の家族の意味を見つけた男の物語。