あらすじ
仙台の郊外、泉台ヶ丘。
定年後も嘱託として働く徳井佑二郎と、楽天的でおしゃべりな妻・節子。
毎夕六時、駅前の赤電話から鳴る五回のコールが、二人の日常の合図だった。
小さな諍いも笑いも、すべてが平凡で愛おしい。
そんな生活が永遠に続くと信じていた――冬の朝までは。
味噌汁の湯気に包まれて倒れた節子。
残された佑二郎は、彼女の声が消えた家で、季節のうつろいと共に静かに喪失と向き合う。
春、夏、秋――繰り返す時間の中に、なお息づく妻の気配。
それは、消えることのない「夫婦の呼吸」だった。
人生の晩年に訪れる愛と別れを、抑えた筆致で描く感動作。
雪と湯気と沈黙のあいだから、確かなぬくもりが浮かび上がる。