あらすじ
あの傘は、たしかに仕舞ったはずだった。
何年も前、恋人と別れた日の駅に置かれていたその傘を、わたしは拾い、二度と使わないと決めて、玄関の奥にそっと仕舞い込んだ。
なのにある日、職場の傘立てに――まるで誰かの手によって――“あの傘”が置かれていた。
それ以来、雨のたびに、わたしの傘は“あの子の傘”とすり替わるようになり、わたしの大切なものがひとつ、またひとつと消えていった。鍵。思い出。顔。名前。そして、わたし自身。
傘は確かに、誰かの手で置かれていた。
そして、わたしは静かに、“傘”になっていった。