あらすじ
児童相談所に配属された新人職員・岸本梓は、「子どもを守る」理想に胸を抱いて働きはじめた。
しかし現実は、書類に押しつぶされる日々、援助金のための数字合わせ、そして目の前の子どもたちがまるで“案件”のように扱われていく現場だった。
そんなある日、梓のもとに保護されたのは、柴田翔という無表情な少年。
彼は口をきかず、誰にも心を開かず、ただ古びた童謡を小声で歌っていた。
「ことりは とっても うたがすき……」
その声は、箱の中で息絶えようとする、かすかな命の声だった。
翔を助けたい。そう願えば願うほど、梓は自分の心の深いところが軋むのを感じはじめる。
「小鳥」とは、翔のことなのか? それとも――
社会の網目から零れ落ちた子どもたち。
その子どもを受け止めるはずだった“箱”は、誰を守り、誰を殺すのか。
静かな暴力と、見えない破壊が交錯する、現代社会の深層。
現場の沈黙を描く、壊れていく“心”のドキュメンタリー文学。
「助けたい」と思ったその瞬間、誰よりも脆く壊れていくのは、私自身だった