あらすじ
「そんなに決め手に欠けるのですか?フロースト様…」
「すまない…こんなに時間をかけてしまうことになるとは、とても思っていなかったんだが…」
「あの婚約者を追放するくらい、あなた様なら簡単な事でしょう?それなのにどうして…」
「…いっそ、自分から消えてくれればいいのにな…」
――――
そんな会話が二人の間で交わされた事実を、私は認識している。…たまたま部屋の前を通りかかったその時、私の婚約者であるフロースト様と、その幼馴染であるセリーナが会話をしていた。元より可愛らしい性格で人気の彼女は、当然彼にも気に入られていた。それゆえ彼女がここを訪れることは珍しい事ではなく、私ももはや対抗心を忘れかけているほどだった。
そんな状態にあって、あの二人はそんな会話を繰り広げていた。…その実態中心は間違いなくこの私。あの二人がくっつくことを望むがために、私に自ら消えてくれないかと漏らしていた。…それもそのはずか、向こうから一方的に追放してしまっては、周囲の人間からどんな目で見られるか分からない。しかし私が自ら姿をくらましてしまえば、すべての責任を私に押し付けた挙句に、めでたく二人は婚約を果たすことができる。…二人にとって、これほど都合の良い結果はないのだろう。
普通なら感情的になるところなのかもしれないけれど、自然と私は落ち着いていた。…本当にこのまま私が消えれば、すべてが丸く収まるのではないだろうか…私なんかよりも可愛らしいセリーナと結ばれた方が、彼もうれしいに決まっている…このまま私が変に粘ってしまっては、互いの利益にはならないだろう…
そう結論を出した私は、その日のうちに行動に移すことを決意した。…ただただ逃げたかっただけなのかもしれないけれど、それでもかまわない。今の私に、他に考えられる手立てなんてなかったのだから。