あらすじ
「私は、神を殺した。」
四年前。鍼灸師・雨月詠(うづき・よみ)は、一人の患者を救うため、山奥の社で“神”に鍼を打った。神は消え、患者も帰らなかった。左手首に残った黒い線だけが、あの夜を今も告げている。
現在、詠は小さな鍼灸治療院「月白堂(げっぱくどう)」を営んでいる。人の感情や死者の残響さえ視える彼女のもとへ、若い鍼灸師・月城朔(つきしろ・さく)がやって来た。臨床技術は未熟、口は達者。しかも詠には、なぜか彼の内側だけが視えない。
そんなある日、予約のない女性が現れる。
「先生。私、三日前に死んだんです」
生きているのに死者の痕跡をまとう女性。存在しないはずの脈。昼の井戸に浮かぶ満月。異変を診るほど、詠が閉ざしていた四年前の記憶が崩れ始める。
見えすぎるために、人を見失いかけた女。
見えないものを、分からないまま診ようとする男。
神を殺した一本の鍼は、裁きだったのか。それとも、救済だったのか。
鍼灸 × 東洋医学 × 神話 × 怪異ミステリー × 静かに育つ恋。
二人の治療家が、人と死者と神の境界へ踏み込む、現代幻想物語。