あらすじ
病院で働く准看護師・山本幸恵は、患者の佐藤悦子の容体と電子カルテに記された数値との間に、拭いきれない違和感を覚える。しかし、病院の業務は記録上の数値と手順に従って進み、現場で目にした患者の苦しみは、整然としたデータの陰に押し込められていく。
幸恵自身もまた、同僚の田所や医師たちとともに、組織の求める「整合性」を守るため、記録を都合よく整える側に加担していた。やがて悦子が亡くなり、院内では形式的な事例検討会が開かれる。電子カルテは、患者の経過が順調だったことを示す一方、誰も責任を問われない結論へと導かれていく。
悦子が残した気象予報の手帳に触れた幸恵は、そこに記された記録と、書き込むことさえできなくなった余白に、データからは消し去られた患者の苦痛を見いだす。病院が守っていたのは患者の命や尊厳ではなく、組織としての整合性だった。その現実を前に、幸恵は自分もまた悦子の死の姿を都合よく書き換えた一人だったと悟り、退職を決意する。
だが、幸恵が去っても病院は変わらない。真実を示す痕跡は「外部からの不正アクセス」などとして処理され、病院は以前にも増して厳しい管理と相互監視の仕組みを築いていく。そして新人職員たちの手元では、再びマウスのクリック音が響き始める。
記録は正確さを装いながら、いつしか現実を覆い隠す装置となる。組織の一員として働く人々は、誰かを傷つけようとする悪意がなくとも、その仕組みに加担してしまう。『修正履歴』は、数字と記録によって人間の苦痛や死までもが書き換えられていく病院を舞台に、制度の論理と個人の良心、そして真実を記すことの意味を問う物語である。