あらすじ
「……もしかして、あの男の奥さんですか?」
午後十時のホテルのロビー。スマホを構えた私の隣で、同じ二人にレンズを向けている男がいた。
夫の出張は嘘だった。夫と腕を組んでいる女の〈友達と温泉〉も嘘だった。
「あの女の夫です。証拠、半分ずつ持ちませんか?」
「半分じゃ足りません。全部ください、コピーで」
経理課の井関志帆(二十九)と、救急医の楢崎尚吾(三十三)は、その夜、名刺の裏に同盟の規約を書いた。連絡は仕事のあとだけ。証拠は二人で共有。恋愛は禁止。
残業のふりをして作戦会議へ出かけるたび、夫は首をかしげる。
「最近、きれいになった? 誰かと会ってる?」
「ええ、毎週。あなたの話をしに」
怒るのが下手で、腹が立つと笑ってしまう私が、数字で嘘を数えはじめる。嘘つきの夫婦二組が一つの机に着く日まで、嘘を一枚ずつ剥がしていく。