あらすじ
社会と私との間には埋められない溝があって、生きていくだけで心の形が変わってしまう。
「……」
帰宅後、「ただいま」もなくソファに座る。一人だから声を出す必要はない。誰とも会わず、話しをしなくていいのは気楽だが、同時に内省の時間にもなる。あの時の発言はよくなかったとか、身振り手振りの気色が悪かったかもしれないだとか、その日の言動の振り返りから始まり、あらゆる記憶が恥となって目を覚ますのである。
他の人は、こうならないのだろうか。
ソファに居座り何分か経ち、未だ立ち上がれずにふと考えるのが、そんな無意味な問いである。他人の事など分かるはずもなく、従って答えなど出るわけもないのに。他人の事よりもまず自身の不具について矯正治療を行うべきにもかかわらず、つい。
この思考は自意識の保持に他ならず、更に深く掘り下げるのであれば自己肯定感へと繋がっている。他の人を例に出し、あたかも自分が特別だと、得意な体質で悩んでいる凡そ成らざる奇人だとレッテルを張り慰めているに違いない。