あらすじ
魔法の天才が、剣にこだわり続けたら、騎士団長になっていた。
王国騎士団長カイル・レオンハート。通り名は「王国の剣」。
火魔法を使えば一瞬で片付く相手にも、剣しか抜かない。
魔物を殺さない。部下にも殺させない。「殺すと、うるせえやつがいるんだよ」。
そのうるさいやつは、王都二番街の古い商館の三階で、今日も机に突っ伏して寝ている。
学園時代からの友人リオ。表は人材派遣、裏は「十三番窓口」と呼ばれる困りごと屋の、眠そうな主だ。
ある朝、北の街道にフォレストウルフが四十頭、逃げてきた。
山の主が消えていた。
国境の向こうの若い貴族が、「山の主をテイムした男」になりたくて、隷属の輪を嵌めて連れ去ったのだ。
主のいない山は、ひと月で崩れる。
山ひとつ分の魔物が、村へ降りてくる。
王は言った。「民を守るためだ。……すまん」。
カイルは答えた。「本当に無理な時以外は、撃退にとどめます」。
騎士団は鉄の棒で獣を押し返し、十三人が倒れた。
次に来るのは千を超える群れ。
その先頭には、輪に頭を食い込ませ、何も見ていない目で吠え続ける主がいる。
剣では足りない。
だがカイルの全力の火は、燃やしていいものを選べなくなる。
前にこの技を使った時、山がひとつ燃えた。
隣に誰かを立たせられるのが、剣だ。
その剣を握ったまま、カイルは火を抜く。
眠そうな友人と、水の匂いのする小さな友達を、隣に立たせて。
「魔法?」
「……いや、剣技だが?」
剣聖の娘を妻に持ち、火を出したがる五歳の息子を持つ騎士団長の、ひと月の話。
『一体契約のテイマーと十三番窓口』の十五年後。本編を読んでいなくても読めます。