あらすじ
「春野さん。……どうして、いつも橘君と一緒にいるの?」
「えっ? だって、橘先輩は私の教育係ですから」
「……そう。じゃあ、明日から俺が教えようか」
「ふ、副社長がですか!?」
仕事では冷静沈着、誰もが憧れる完璧な御曹司。
春野結衣、二十五歳。
実は彼女には、誰にも明かしていない秘密があった。
国内有数の大企業・蒼葉グループ。その社長の、たった一人の娘なのだ。
「お父様、お母様。私、自分の力で生きてみたいの」
大切な一人娘を手放したくない両親を何度も説得し、ようやく許してもらった一人暮らし。
家柄にも親の力にも頼らず、普通の女性として働きたい。
そんな願いを胸に、結衣は素性を隠して久世ホールディングスの採用面接を受ける。
そして面接当日、一人の男性と偶然出会った。
端正な顔立ちに、落ち着いた物腰。思わず見惚れるほど美しいその男性は、久世財閥の御曹司にして若き副社長、久世蓮、二十九歳。
結衣は気づかなかった。
彼こそが十八年前、近所で毎日のように遊んでいた幼なじみの「れんくん」だということに。
そして蓮が、幼い頃に交わした結婚の約束も、結衣への初恋も、ずっと忘れずにいたことを――。
無事に入社した結衣を待っていたのは、なぜか毎日のように部署へ現れる副社長だった。
男性社員と話していれば割り込み、先輩から食事に誘われれば自分も同行しようとする。
優しく微笑んでいたかと思えば、結衣がほかの男性を褒めただけで途端に不機嫌になる。
そんな蓮の不器用な優しさに、結衣も少しずつ心を惹かれていく。
「久世副社長、鷹宮銀行のご令嬢と婚約なさるんですって」
社内に広まった、名門財閥と銀行頭取令嬢の華麗なる縁談。
美しく気品あふれる鷹宮麗華は、蓮との結婚を当然のように望んでいた。
親しげに寄り添う二人を目にした結衣は、胸の痛みに気づいてしまう。
叶うはずのない恋。
そう思い、蓮から距離を置こうとする結衣。
蓮は結衣が自分を避ける理由もわからず、悠真との距離が縮まっていくことに焦りを募らせていた。
そして、蓮さえ知らない結衣の本当の素性。
彼女が大企業の社長令嬢、それも唯一の後継者候補だと明らかになったとき、二人の恋はさらに思いがけない方向へ動き始める。