あらすじ
東京の路地裏にある、小さな喫茶店「南の小路」。
店主と、孫の硬矢が営む、誰も急かされない店。
窓際で文庫本を読む老婦人。放課後に寄る高校生の二人。時間つぶしに立ち寄った会社員。
いつもの午後、誰も触れていないのに、扉のベルが鳴った。
光に包まれ、気がつくと、店ごと見知らぬ海辺の丘の上にいた。
窓の外には、小さな漁村。電気もガスも止まり、残されたのは店と、わずかなコーヒー豆だけ。
剣の腕も、強い魔法もない。
あるのは、三十年同じ味を守ってきた店主の手と、「居場所」を知っている喫茶店という場所だけ。
豆が尽きれば、コーヒーは淹れられない。
炭火と鉄鍋で焙煎を一から試し、森の葉から茶を作り、疑いの目を向ける村人たちに、一杯を差し出していく。
その一杯は、やがて村の人々の心をほどき、剣を抜いた騎士の手さえ止めることになる。
なぜ自分たちは、この世界に呼ばれたのか。
帰る方法は、あるのか。
異世界に、一杯のコーヒーと、居場所を。
チートなし、じっくり積み上げていく喫茶店ファンタジー。