あらすじ
「定時刻に、必ず届ける」
それが蘇鉄陽介の仕事だった。二十四歳、従業員六人の零細運送会社・蘇鉄運送の配達員。無表情、無駄口なし。事故ゼロ、遅延ゼロ。休憩は十一時にきっちり十分取る。
ある雨の午後、彼はトラックごと異世界に落ちた。曲がり角の先に、道がなかったのだ。荷台には、伝票のついた段ボールが十七箱。宛先は——この世界だった。
「お届けに上がりました」
差し出したのは、受領印を押してもらうための伝票である。だが荒れた里の住人たちは、息を呑んだ。
「……封印の器を運ぶ者が、ついに来た」
中身は、インスタントラーメン。しょうゆ味。十二食入り。
この世界では、受領の署名はただの確認ではない。記録に書かれたものが現実を決め、署名した者は世界の法則に縛られる。だから将軍は、剣を握ったまま伝票に名を書くことになる。王も、魔王も、同じである。
誤解は、解けないまま大きくなる。里の噂が魔王軍の記録になり、王都の古文書になり、大陸の伝説になっていく。
戦わない。勝たない。一話目にできることは、百話目でも同じ。主人公は最後まで、一度も強くならない。
それでも、誰にも止められない。
「定時刻」を守り続ける男の、静かな成り上がりの物語。