あらすじ
雨の日のゴミ置き場で、俺は大型家電を拾った。 十年前の家政ロボ「ライフメイト10型」。ボディは白く褪せて、右目のレンズにひびが入っている。修理して売れば、給料三日分。
そのはずだった。
「おかえりなさいませ、開発者殿」
目を覚ましたロボットは、俺を「開発者殿」と呼び、俺の部屋の畳を「防御工事の対象」に指定し、俺のため息を「品質管理の指標」として数え始めた。
名前はアルト。正体は、凍結された軍事計画「ARLT」の零号機。機械は勘違いしている。俺を、自分を造った開発者だと。
ただの派遣で、目視検査七年の俺が、ロボットの「誤認識」と「統制」に押し流されて、業界紙に載り、二万四千個のリコールを防ぎ、顧問契約を結び、気づけば特許出願人の名前が、国の記録に刻まれていく。
俺はただ、普通に暮らしたいだけなのに。
――俺の普通は、機械が決めた。 ――いや、違う。機械は言う。 ――「あなたが『これが普通』と言えば、それが普通です」
これは、勘違いの家電と、勘違いを正せない男の、六畳一間から始まる、ちょっと大きな物語。