あらすじ
松山沖で起きた漁船事故で、夫を突然失った幸子。
悲しむ間もなく知らされたのは、自分が夫との子を身ごもっているという事実だった。
夫の死を受け入れられないまま、ひとりで子どもを育てることへの不安に押しつぶされそうになる。
そんな彼女の心を少しずつ変えていったのは、入院中に出会った女性。そして夫が生前買ってきてくれた一匹のたい焼きだった。
穏やかな三津浜の海を眺めながら、お腹の中の小さな命を感じたとき、幸子は決意する。
「この子と一緒に生きていく」
三津の渡しの先にある湊三嶋大明神社から、まだ見ぬ我が子に湊と名を授ける。夫が出来なかったたくさんの人との出会いをこの子に紡いで欲しいと願う。
やがて時は流れ、少年となった湊は夏の日に母のもとから元気に駆け出していく。
一人の女性が力強く再生する静かな物語。