あらすじ
七年ぶりに故郷へ帰ろうとして、高瀬湊は道を見失った。
道を間違えたわけではない。
村へ続く道そのものが、なくなっていた。
地図にもない。
住所もない。
役所の記録にもない。
近隣の住民に尋ねても、誰一人として村の存在を知らない。
――芦倉という村は、最初から存在しなかったことになっている。
それでも湊には、確かに記憶がある。
祖父母の家。
夏に泳いだ川。
祭りの夜。
村へ入る道に立っていた、奇妙な鳥の印。
消えた故郷の痕跡を追う湊は、遠く離れた土地の古文書に同じ印を発見する。
そして旅の途中、ひとりの少女と出会った。
「……遅かったね」
ナギと名乗るその少女は、自分でもその言葉の意味を知らなかった。
二人が辿る先には、日本各地に残された奇妙な風習があった。
死者を出した家では、三日間、戸を閉めてはいけない。
ある橋では、決して川を覗き込んではいけない。
名前を呼んではならない夜がある。
迷信として忘れられつつあるそれらには、かつて人々が知らず知らず触れていた、この世界の「理」が残されていた。
なぜ、芦倉だけが世界から消えたのか。
なぜ、湊だけが村を覚えているのか。
そして――ナギは、なぜ芦倉を知っているのか。
失われた故郷へ帰るため、二人は日本を巡る。
その旅の果てで湊が知ることになる。
母がかつて彼に言った、
「あなたは何にだってなれるから」
その言葉の、本当の意味を。