あらすじ
一九〇〇年、パリ万国博覧会。
世紀の変わり目に沸く芸術の都で、高級社交界の貴婦人たちを狂乱させる衣服があった。
着物の合わせの美を盗み取った最新モード
「カシュクール・ドレス」
この空前の着物ブームをたった一人の肉体で巻き起こしたのは、アメリカでの飢餓地獄から奇跡のスカウトを受け、フランスへ渡った元・日本一の誉れ高き居留地芸者、川上貞奴であった。
西洋の巨匠ロダンや若きピカソが「東洋の神秘」と勝手に勘違いしてひれ伏す舞台の裏側。
フランス演劇界の絶対女王であり、のちに国葬されることになるサラ・ベルナールが、激しい嫉妬を胸に変装して客席に潜んでいた。
公式通訳の磯野秋雄が「文字の契約書」に目を凝らし、座長の川上音二郎が理想を語る横で、アルファベットすら書けない貞奴の目は冷め切っていた。
彼女の武器は、かつて横浜の『長い浜』で耳から毟り取った生のフランス語の響きと、秘密のカタカナ手帳。
西洋の怪物たちが放つ傲慢な皮肉の裏にある「本音と焦り」を完璧にハッキング(解釈)し、世界の知性を手玉に取った、文字を持たぬ天才女優のプライドを描く知的大衆エンターテインメント。