あらすじ
朝を告げる弱い陽光の中、僕は冷たいシャワーで体を洗い流す。脳裏に焼き付いて離れない「淡いオレンジの光が差す畳の間で、乱れた衣類のまま横たわる女性」の映像。その忌まわしい残滓と下腹部の熱を打ち消すための『お清め』の儀式。幾年もの間、僕は正体不明のトラウマと、それに伴う異常な行動に苛まれ続けていた。
社会の鎧を纏って向かう職場もまた、逃げ場のない戦場だった。数ヶ月前に異動してきた冷酷な上司・高梨主任は、端正な顔立ちの裏で陰惨な支配とハラスメントを繰り返し、職場の空気を歪ませていく。僕の恋人である小橋美咲もまた高梨の標的となり、二人の心と関係は次第にすれ違い、蝕まれていった。
ある夜の宴席、泥酔した美咲を連れ去る高梨の冷ややかな嘲笑。美咲からの連絡は途絶え、僕は失意と無力感の底へと突き落とされる。絶望のなかで悪夢に引きずり戻された僕は、幼少期に目撃した「母が男に蹂躙されていた光景」と「母の下着に手を伸ばしてしまった自分の過去」という、封印していたトラウマの核心へと至るのだった。
限界を迎えた僕は、吸い寄せられるように郷里の実家へと足を向ける。
そこで待っていたのは、すべてを悟っていた母の温かな眼差しだった。狂気とも聖母の慈愛ともつかない歪で深い受容のなかで、母は僕の過ちも、傷も、情けない叫びもすべてを受け止め、抱きしめてくれた。
「やりたいように、やりなさい。駄目だったらここに帰ってくればいいんだから」
母の温もりによって心の氷を溶かされた僕は、長年の呪縛から解き放たれ、自分の足で立ち上がる。向かうは、傷つき、冷え切った身体でひとり震える美咲の元。
冷たい汗と過去の幻影に別れを告げ、大切な人の体温を取り戻すために――トラウマを乗り越えた男が「闘う覚悟」を宿すまでを描いた、重厚で切ない心理再生ドラマ。