あらすじ
六十歳を目前にした景司は、職場で向けられた三白眼の男の視線をきっかけに、長年勤めた会社を辞める。貯金は多くない。これといった夢もない。それでも景司は、小さな旅行鞄一つを持って、行き先を決めない旅に出る。
金が少なくなれば農家で働き、魚市場で荷物を運び、屋根を直し、倉庫で汗を流す。仕事は長続きしない。けれど、旅の途中で出会う人々との短い縁が、少しずつ景司の心を変えていく。
最初は「会社から逃げた」と思っていた。自由になったはずなのに、時には寂しさも覚える。しかし景司は、誰かに必要とされることや、肩書きを持つことだけが人生ではないと気づいていく。
働いた一日、誰かと交わした言葉、温かな食事、見知らぬ町の風景。そんな小さなものこそ、自分の人生を形作っている。
やがて景司は、夢や大きな目標がなくてもいいと思えるようになる。
「俺は、俺の道を行けばいい。」
過去を否定するのでもなく、未来を恐れるのでもない。風の向くまま、自分の歩幅で生きていく。
これは、六十歳を前にして始まった、景司の新しい青春の物語である。