あらすじ
パチンコ屋の店長だったレンは、カジノ解禁の波に賭けて業界を移るも、計画は頓挫して解雇。路頭に迷った末にトラックにはねられ、剣も魔法もない身のまま異世界へ転生する。女神も特典も現れず、手元に残ったのは、ついに自分の店として立てなかった賭場の記憶と、いつか本物のカジノを持つという夢だけだった。
拾われた酒場の皿洗いから、レンは酔客のコイン投げに胴元と規則を持ち込み、木札のブラックジャック、やがて十三区画の回転盤を作り上げる。数字にも奇数偶数にも同じだけ店が有利になる「月兎」の一区画がそっと稼ぎ、賭場は連日の大盛況。守銭奴の店主バルガンも、しっかり者の看板娘フィーナも、増えていく銀貨に目を丸くする。
ところが常連の中には、魔王討伐に発つはずの勇者アルベルトがいた。ビギナーズラックで箍の外れた勇者は盤から離れられず、出発を延ばしては舞い戻り、ついに王から預かった路銀――金貨一枚――の半分を、一晩で溶かしてしまう。
魔王より先に、勇者の財布が滅んだ。噂は市場を駆け、王都を揺らし、世界の命運を懸けた遠征が、木の円盤ひとつで狂い始める。元ディーラーの静かな胴元は、まだ自分の店を持つ夢の入口に立ったばかりだというのに――。