あらすじ
「姉なんだから譲りなさい」
伯爵家の跡取りとして育てられたクラリスは、母のその一言で、人形も誕生日も祖母の形見の櫛も、すべて妹ミレイユに譲ってきた。
そして今夜、妹が欲しがったのは婚約者。当のエドガーも「ミレイユの方が僕を必要としてくれる」と乗り気で、父は黙ったまま。
「分かりました。譲ります。ただ、この婚約は跡取りとの婚約ですから――」
クラリスは王宮の公証役を呼び、婚約者も跡取りの座も家も、書面で正式に妹へ譲った。家族は誰も、その書面を最後まで読まなかった。
祖母の形見の旅行鞄ひとつで家を出た彼女が向かったのは、二年間、仕事の手紙だけを交わしてきた隣領の侯爵のもと。
譲ってばかりだった彼女が、初めて「欲しい」と言えるものとは――。