あらすじ
三年前、元首相・谷部慎一郎が銃撃された。
犯人として逮捕されたのは、川上達也という一人の男だった。
事件は「単独犯による凶行」として処理されていく。だが、新聞記者の結城大吾は、川上がなぜ元首相を撃ったのか、その背後に何があったのかを追い始める。
浮かび上がってきたのは、母が信仰していた宗教団体「光永会」、巨額の献金、家族の崩壊、そして社会からこぼれ落ちた一人の青年の声だった。
一方、宗教学者・外崎千尋も事件を「信仰」という構造から読み解こうとしていた。
記者が描く川上。研究者が分析する川上。そして、何より川上自身が語る「自分」。
同じ事件を見ているはずなのに、そこに映る人物像は少しずつ違っていく。
やがて残された一通の手紙が、これまで語られてきた物語に静かな「訂正」を突きつける。
これは、元首相銃撃事件の犯人を描く物語ではない。
「誰の声が残り、誰の声が消されるのか」を問いかける物語である。