あらすじ
物流倉庫で事故に遭った男が、次に生きることになったのは――戦国時代の紀伊国だった。
天文十九年、一五五〇年。
十二歳になった少年の名は、鈴木孫一。
後世に「雑賀孫一」と呼ばれ、鉄砲で織田信長を苦しめることになる男である。
だが、前世の彼は歴史学者でも、兵器技術者でもない。
覚えている未来も曖昧。
鉄砲の作り方など分からない。
彼にあるのは、食品会社で身につけた――人と物を、必要な場所へ動かす知識だけだった。
そんな孫一が最初に直面した問題は、合戦でも飢饉でもない。
雨に濡れた、数俵の米だった。
米があっても、勝手には使えない。
人がいても、命令すれば動くわけではない。
船を動かすにも、道を使うにも、銭と約束と信用が要る。
十二歳の孫一は、父の帳面を読み、浜を歩き、船頭と話し、村と村をつなぎながら、少しずつ戦国の仕組みを覚えていく。
やがて彼の前には、土橋氏、太田党、根来寺、湯河氏、熊野の国人たち――一筋縄ではいかない紀州の勢力が現れる。
そして、その向こうには。
石山本願寺。
織田信長。
羽柴秀吉。
避けては通れない戦乱の時代が待っている。
未来を知っているから勝てるわけではない。
鉄砲が多ければ勝てるわけでもない。
兵一万人を戦わせるなら、一万人を食わせなければならない。
百挺の鉄砲を撃たせるなら、弾も火薬も火縄も運ばなければならない。
城を取っても、道が止まれば国は動かない。
ならば――。
戦国時代を、物流から変えてみよう。
他人の濡れた米を救うところから始まった少年は、やがて雑賀を、紀州を、そして天下を動かす戦いへ踏み込んでいく。
これは、鉄砲だけでは天下を取れなかった雑賀孫一が、
「物が止まらない国」
を作ろうとする物語。