あらすじ
乱の世を智謀で駆け抜け、「天下を狙う器を持ちながら、天下を取らなかった男」
――黒田如水。
その晩年を、春の光と影の移ろいの中に静かに描き出す歴史小説である
。福岡から伏見へ、老将が辿る最期の旅路は、戦の匂いを遠く離れ、「残されたのは、長い年月を生きた者だけが持つ静かな諦観」だけとなった心の風景を丁寧に映し出す。
本作は、父としての情、武人としての覚悟、そして一人の人間としての祈りが、春霞のように淡く重なり合う物語だ。息子・長政との盃を交わす夜、戦友・母里友信との再会、家臣たちへの最後の気遣い――それらはすべて、如水が影を薄くしながら光へ還っていく過程として描かれる。
伏見で迎える最期の朝、如水は震える筆で辞世を記す。「霞の果て 影を脱ぎゆき 光へと」。その句は、彼の生涯そのものを象徴する静かな輝きを放つ。
華々しい戦の物語ではなく、老いと向き合い、影を脱ぎ、光へと帰るまでの心の旅路を描いた本作は、読む者の胸に深い余韻を残す。春の光と影のあいだに揺れる老将の姿は、時代を超えて静かな感動を呼び起こすだろう。