あらすじ

愛した記憶を燃やして魔法を使う王国エルセリア。北境の砦で八千の帝国軍を退けた「灰の魔女」リディエは、戦いのあと理由のわからない涙を流す。燃やしたのは、夏の丘で誰かと過ごした夕暮れの記憶。その「誰か」の顔も名前も、もう思い出せない。 王都に戻った彼女のもとに、新しい護衛騎士エリアスが赴任する。彼は北境の城壁で倒れた彼女を抱きとめた、名も名乗らない騎士だった。「はじめまして」と微笑む彼は、誰にも教えていない紅茶の好み――蜂蜜二匙――を正確に知っている。不審に思ったリディエが日記を読み返すと、四年前から半年おきに、六度にわたって頁が切り取られていた。護衛名簿も、同じ時期の名前だけが白い。そして蜂蜜で貼りつき、切り取りを逃れた一枚には、自分の字でこう書かれていた――「次の私は、きっとまた、あの人を好きになる」。 過去の自分が残した手紙を辿り、二人は王国を旅する。その中でリディエは真実を知る。彼女が燃やした記憶は消えていなかった。「薪」の契約者であるエリアスの中に、六度分の恋がすべて預けられていたのだ。返せば魔法の力も逆流し、北境の結界が崩れる。だから彼は、忘れられるたびに「はじめまして」と言い続けてきた。七度目の恋を自分から選び取ったリディエ。だが帝国軍の奇襲で、彼女はまたその恋を燃やす。そして、他人の愛の記憶を奪い集める「黙灰卿」ヴェイルが、エリアスを連れ去る。 彼を忘れたリディエに残ったのは、身体に刻まれた「灰」だけだった。蜂蜜二匙、夜の回廊、知らない子守唄。それを手がかりに、弟子ユーゴや師マグダの力を借りて、彼女はヴェイルの城へ向かう。燃やすのではなく「覚え続けること」を力にする新しい魔法「覚術」を生み出し、ヴェイルに亡き妻の記憶を返す。王女セラフィナの交渉で戦争は終わり、魔女が愛を燃やさなくていい世界が訪れる。 忘れ川のほとりで迎える八度目の再会。彼が口を開く前に、彼女は言う――「はじめまして、じゃないでしょう」。その夜から、彼は毎晩ひとつずつ、預かっていた記憶を返していく。

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小説を読もう2026/09/26
  • 現在の作品あなたを忘れるための魔法