あらすじ
鬼退治の一部始終を語れる男が、自分の名前だけを答えられなかった。
ここは、忘れられた者が流れ着く辺獄。長く語られた噂は「もう一枚の顔」となって本人に貼りつき、放っておけば、本人の物語ごと呑み込んでいく。
その綻びが視える回収屋。答えを迫らず、問いを一つ置いて、失われた本人の物語を拾い直す。報酬は大根一本のこともある。それでも、目の前の顔をほっとけない――なぜかは、本人も知らない。
だが、剥がしたはずの話は消えない。土地を移っても、言い方を変えて追いかけてくる。――誰かが、まだ語り続けている。
後戻りのきかない場面も、ある。深追いすれば、こちらも無事では済まない。そして回収屋の目が届かないところが、一つだけある。自分の顔だ。
聞き覚えのある伝承が、思ってもみなかった顔で立ち上がる。謎を解くのは終わりじゃない。そのたび、誰かの物語が、居場所を取り戻していく。