あらすじ
地下六百メートルの観測施設で、奇妙な重力異常が発見された。
その揺らぎは、決まって――三・七秒。
そして奇妙なことに、その発生時刻は、人間が「誰かの記憶」を強く思い出した瞬間と一致していた。
科学者・冬木澪は、自らを被験者として実験を行う。
思い出したのは、八年前に事故で亡くなった娘・凛。
ところが、脳から復元されたのは、澪が覚えているはずのない言葉だった。
――「ママ、次はちゃんと忘れて」
さらに記録には、現在には存在しない研究施設。
そして、十二年後のタイムスタンプ。
一方、政府の危機管理部門では、「どちらも改竄されていない、矛盾した二つの事故記録」が次々と発見されていた。
月面の時計は、存在しない時刻を記録する。
写真には、誰も覚えていない家族が写っている。
そして、忘却が起きるたび、地下深くのセンサーが揺れる。
記憶は、ただ脳の中にあるだけなのか。
忘れるということは、本当に「消える」ということなのか。
もし――
人間の記憶そのものが、宇宙の情報を保存しているのだとしたら。
失われた娘の記憶を追う母。
過去を隠す父。
矛盾した現実を追う官僚。
そして、記憶を失った弟を取り戻そうとする研究者。
それぞれが「忘れたもの」に触れたとき、世界のほうが、その記憶を取り戻そうと動き始める。
これは、宇宙に残響する「記憶」の物語。