あらすじ
春の日。
ボタニカルアートと押し花を仕事にする紡木紗良は、アトリエ近くの小道で一人の青年と出会った。
風に飛ばされた一枚のスケッチ。
それを拾ってくれた彼は、別れ際、道端に咲く小さな花を踏まないよう、ほんの少しだけ歩幅を変えた。
名前も知らない、ただそれだけの出会い。
けれど数日後、二人は近くのカフェで再会する。
そして三度目の出会いで、ようやく互いの名前を知った。
星織蒼星、二十五歳。
大学院で心疾患の研究を続ける青年。
静かで穏やかな蒼星と、言葉より行動で想いを伝える紗良。
カフェで言葉を交わし、アトリエで同じ時間を過ごすうち、偶然だったはずの出会いは、少しずつ恋へと変わっていく。
けれど、蒼星には紗良に言えないことがあった。
ときどき見せる苦しそうな表情。
人より少し遅い歩幅。
何気ない未来の話を、どこか避けるような言葉。
紗良がその理由を知らないまま、二人の距離は近づいていく。
未来を約束してはいけない。
誰かを好きになってはいけない。
そう自分に言い聞かせていたはずなのに。
蒼星は、紗良と出会ってしまった。
恋をしてしまった。
そして初めて――未来が欲しいと思ってしまった。
これは、限られた時間の中で出会った二人が、
何度も迷い、それでも互いの隣を選びながら、
明日を信じようとした物語。
赤い糸は、どこへ続いているのか。
その答えを、二人はまだ知らない。
――Still, I Loved You.