あらすじ
「この目は、死ぬ運命をすべて悟っている――」
兄の遺品であるノートパソコン。そこに残されていたのは、洋装の軍服に身を包み、日本刀を立てて座る、髷(まげ)を結った一人の少年のモノクロ写真だった。
恐ろしいほどに冷たく、醒めきった目。画像の隅には、兄の手で『勝見善太郎。享年19(満17歳)。阿武隈川にて斬首』とメモが残されていた。現代なら、まだ高校生だ。――なぜ、所属部隊の戦いから一人だけ外され、死地へ赴かねばならなかったのか。その夜、兄の遺品を整理しながら泥のように眠り込んだ私は、生々しい「夢」を見る。慶応四年閏四月二十日、暗殺者たちが階段を上がってくる、あの福島「金沢屋」の夜を。夢の中で私は、その17歳の少年兵・善太郎の視点と同化していた。そこで明かされる、教科書には絶対に載っていない「真実」。善太郎に下されていた本当の密命は、新政府軍参謀・世良修蔵の【監視】、そして【暗殺】だった――。激務で精神をすり減らす現代の「私」の日常を、150年前の少年兵の記憶がじっとりと侵食していく。夢か現実か。次第に境界が融解していく狂気のなかで、私は兄が命を懸けて手繰り寄せた、国家誕生の裏に隠された巨大な陰謀の深淵へと引きずり込まれていく。現代の孤独と幕末の不条理が交錯する、サイコ・歴史ミステリー。