あらすじ
大学生の末広佳奈は、ホラー映画が好きだった。
恐怖が好きなのではない。
恐怖の順番が好きだった。
溜め、間、見せ、切断、余韻。
どこで息を止め、どこで切るかを観ていると、怖さより先に編集が見えた。
深夜のコンビニバイトが終わったあと、安いレンタルの旧作を一人で観るのが、佳奈の帰宅儀礼だった。
その日も同じはずだった。
帰り道、珍しくまだ電気のついている古本屋があった。
雨に濡れた棚の端に、手書きの紙が一枚、テープで止められている。
所々滲んで、文字が欠けていた。
残っているのは、仕事内容と、時給と、住所と、電話番号だった。
【映画 ホラー上映 未経験者歓迎 時給千八百五十円〜】
時給だけは、滲んでいなかった。
コンビニより高い。
佳奈は、自分でも意外に思うほど早く電話をかけていた。
呼び出し音は二回で止まった。
「……あの、求人を見て」
沈黙があった。
受話器の向こうは、人が出ているというより、穴が開いている感じだった。
「名前を、いつもと同じ順番で言って」
生気のない声だった。
女の声ではあるが、普通の女性よりも低い。
吸っている煙草の匂いまで聞こえるような声だった。