あらすじ
松竹ウメ、九十歳。
貧しいながらも家族に愛されて育ち、戦争と空襲を経験し、焼け跡から立ち上がる人々を見てきた。
結婚し、子供を育て、孫や曾孫にも恵まれ、多くの人との出会いと別れを重ねた末、家族に見守られながら静かに人生を終える。
「良い人生だったねぇ」
それが彼女の最期の言葉だった。
――そのはずだった。
次に目を覚ました時、ウメは異世界の公爵令嬢、リリナ・ザナルバルトとして生まれ変わっていた。
新しい父と母。
五歳年上の兄。
そして、前世とはまるで違う世界。
もう一度与えられた人生を歩む中で、リリナはやがて人々を守る存在――聖騎士に憧れるようになる。
けれど彼女には、剣の特別な才能もなければ、圧倒的な魔法の力もない。
剣術は平凡。
魔法も平均的。
それでもリリナには、誰にも持っていないものがあった。
九十年を生きた、一人の人間としての記憶。
人の話を聞くこと。
争いの向こうにいる人を見ること。
失ったものが簡単には戻らないと知っていること。
そして何より、戦争が始まった後に何が残るのかを知っていること。
十五歳になったリリナは、聖騎士養成学園へ入学する。
そこで出会ったのは、正義を信じる若者たち。
剣の天才ティゼル・アークラディ。
王国への忠誠。
神殿の教え。
長年敵とされてきた魔族。
誰もが自分の正義を信じている。
けれどリリナは少しずつ気づいていく。
――正義とは、本当に敵を倒すことなのだろうか。
これは、無双する英雄の物語ではない。
戦争を知る九十歳のおばあちゃんが十五歳の少女としてもう一度人生を歩きながら、人と向き合い、迷い、学び、やがて剣では終わらせられない戦争を終わらせようとする物語。
戦争を知る者は、誰よりも平和を願う。