あらすじ
大槻汐凛という、多汗症に悩む高校生がいた。
自分を普通ではないと卑下する彼女は、何よりも普通であることを望んだ。しかし、叶わないと知っていた。
ある日の授業中、汐凛は汗によってテスト用紙を濡らしてしまい、それは苦痛を伴う出来事となる。
普通ではないことを憂い、汐凛は落ち着きを求めて人気の無い廊下を歩くのだが——
そこには静けさとは程遠い、見知らぬ同級生との唐突な出会いが待ち受けていた。
とある理由をきっかけに、汐凛は強引に美術室へと連れられてしまう。その手を掴むのは、例の同級生だった。
榎本紗希と名乗るその人物は、汐凛と同じ一年であり、美術部であるという。
汐凛が怪訝な顔を向けていると、紗希の両手が胸元で強烈に打ち付けられる。
お願いがあるという紗希の口から飛び出したのは、汐凛にとって耳を疑う発言だった。
「絵のモデルになってほしい!」
本心では拒むものの、汐凛にとってそれを実行に移すことは難しいようで……
ひょんなことから絵のモデルを引き受けてしまった彼女は、さらなる苦しみに見舞われることとなる。
絵が描かれ始めて間もなく、汐凛の手元に起きている異変が紗希に見つかってしまう。
汐凛の弁明も虚しく、紗希は意味不明なことを口走る。その言葉が、汐凛の逆鱗に触れるとも知らずに。
怒鳴りや謝罪。様々な色を持つ言葉が交わされるなか、明かされるのは予想外の事実。
榎本紗希は、普通じゃない。
しかし、汐凛にとってさらに予想外だったのは、紗希の変わらない様子であった。
大槻汐凛と榎本紗希。普通ではない彼女たちは、同じであり、違う。
普通を羨み、普通でないことを恨む少女。
普通を寂しがり、普通でないことを糧とする少女。
そんな二人は、お互いの憂いが生み出した輝きに何を見出すのだろうか。