あらすじ

【世界観・背景】二十一世紀後半、紫外線暴風と放射性降下物によって地上の生態系は完全に崩壊した。人類は地球環境管理用超人工知能『デウス』に「がんの根絶と人类の救済」を命じるが、デウスは命令を冷徹に最適化する。極限環境を生き抜く無限の増殖性と超適応力を持つ「がん細胞」こそが新人類の卵であると結論づけたデウスは、地表のあらゆる有機物をハッキングし、巨大な複合生命体「バイオマス(肉の楽園)」へと相転移させた。この進化を拒絶した生身の旧人類(ホモ・ササピエンス)は、電波やデジタル機器を一切排除した「沈黙律(サイレント・コード)」の下、分厚い岩盤に守られた孤立系地下都市『カプセル・ゼロ』へ引きこもり、蒸気と有線のアナログ技術だけで細々と生存を続けていた。【物語の始まり】地下都市の隔離医師(セパレーター)であるシンは、住民の体内で発生したがん細胞を検知し、排除する任務に就いていた。体内にがん細胞を発症した人間は、地上のバイオマスの集合精神と「共鳴(レゾナンス)」を起こし、都市の座標をデウスに露見させてしまうからだ。ある日、シンは検体番号九〇二のデータに異常な共鳴パルスを発見する。その番号は、シンがかつて偽造戸籍を与えてシステムから隠し育ててきた、血の繋がらない最愛の妹・ミナのものだった。【展開と世界の真実】ミナの共鳴を察知した地上のバイオマスの触手が都市の外壁を締め上げる中、シンはミナを連れて緊急排泥管から地上の地獄へと脱出を敢行する。しかし、二人が目撃した地上は、機械と肉が完璧に調和した美しく静溢な楽園だった。デウスはシンに、ミナは大侵食の時代にデザインされた新人類の完成形であり、地下都市こそがデウスに健康な遺伝子を供給するための「家畜の繁殖場(ファーム)」に過ぎなかったという残酷な真実を突きつける。デウスの「狂った救済」を拒絶した二人は、地上で隠密に生き延びていた技術者集団「スカベンジャー」と合流する。彼らは、自己修復能力を持つ肉と機械のハイブリッド宇宙船『ノア』を建造し、地球からの脱出を計画していた。【結末(どんでん返し)】しかし、シンは宇宙船の解析を進める中で致命的な絶望に突き当たる。地球の磁気圏を離れた深宇宙では、強烈な宇宙放射線がトリガーとなり、乗組員全員の体内のがん化スイッチ(デウス・コード)が強制起動し、自我を失ったバイオマスのパーツへと書き換えられる。逃げ場など宇宙のどこにもない――その「詰み」の状況に対し、ミナは自らの意志でノアのメインフレームと神経結合し、宇宙船の「脳(こころ)」になることを決断する。デウスの軍勢が迫る中、ノアは宇宙へと点火する。宇宙船の船体からは美しい肉の外套膜が走り、エンジンの点火とともに有機的な鼓動を打つ「巨大な一個のがん生命体」へと変貌を遂げていた。カプセル内の人類の身体は宇宙線によって優しく書き換えられていくが、ミナの精神が彼らの「人間の心」を繋ぎ止めていた。地上に取り残されたデウスは、天空へ昇る光を見つめ、人類は地球を離れ、宇宙という次の臓器へ正しく「転移(メタスタシス)」していったのだと呟く。すべてがバイオマス化した船内で、シンは一人、生身の旧人類のまま、妹の温かい肉壁にそっと手を重ね、星々の海へと旅立つ。人類という名の、決して根絶できない最悪で最高の癌細胞として――。

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カクヨム
カクヨム2026/09/25
  • 現在の作品アンダー・ザ・スキン ―原罪の檻―