あらすじ
十歳の春、「無能」の俺は『死の沼』へ捨てられた。
授かったスキルは【抽出】。泥から屑をひとつまみ抜くだけの外れ能力——のはずだった。
「……逆、なのか」
渇きで死にかけたその時、俺は気づく。
これは屑を抜く力じゃない。欲しいものだけを残す力だ。
毒の水から、澄んだ一杯を。
猛毒の草から、傷を癒やす秘薬を。
そして、同じく群れに捨てられた黒豹族の少女・セルカの体から、死の病を。
——五年後。
十五歳になった俺のもとには、行き場をなくした亜人たちが集まり始めていた。
毒を抜いた黒土に芋が実り、泥は石より硬い防壁に、害草は絹のような布に変わる。
【抽出】が拓いた土地で、鬼人族が壁を積み、兎人族が鍋をかき混ぜ、山岳亜人(ドワーフ)が鉄を打つ。
誰もが腹いっぱい食べて、ぐっすり眠れる場所。
人々はいつしか、死の沼を「楽園」と呼ぶようになっていた。
一方その頃、俺を捨てた実家では——
なぜか岩塩が苦くなり、井戸の水が濁り始めていた。
俺が毎朝、塩樽の前で何をしていたのか。あの家の誰も、俺自身さえも、知らなかったのだ。
「今さら戻ってこい? ——断る。ここは俺と、仲間たちの国だ」
捨てられた少年が、知恵と経験と仲間の手仕事で死の地を拓く、辺境開拓ファンタジー。