あらすじ
「やっと見つけた」
その声は僕に向けて発せられたものだった。その声は聞こえていたけれど、僕は動かなかった。
強がりでも我慢でもない。
ただ、僕の世界に彼女をまだ入れたくなかった。そう思っただけだった。
「ごめん」
一日中、何もせずにただ海を眺めていた男の口から漏れたのは、謝罪だった。
ただその一言は僕の口をするりと抜け出すと、八月のシャボン玉みたいにふわふわと空に昇って、見えなくなった。
彼女は、そのシャボン玉が割れるまで見続けるほど子供じゃない。
彼女の手が、するりと僕の右脇に入り込む。
氷みたいな真っ白な彼女の手が、乱暴に僕を引っ張る。
立ち上がる。
彼女は怒っているだろうか。
それとも呆れているだろうか。
それとも慰めてくれるだろうか。
「行くよ」
彼女の心情を汲み取れるほど、僕は大人じゃなかった。