あらすじ
高梨紬、三十歳。
紅茶専門店で七年間働き、いつか自分の店を持ちたいと思いながらも、失敗するのが怖くて一歩を踏み出せずにいた。
そんな紬が突然迷い込んだのは、魔法が生活の一部になっている異世界。
ところが紬には、魔力がまったくなかった。
仕事探しにも苦労する中、市場で見つけたのは、紅茶によく似た香りを持つ「ラティア葉」。
この世界では料理や薬草に使われているその葉を、紬は一杯の紅茶にする。
やがて日本では叶えられなかった夢を、異世界で叶えることを決めた紬。
小さな紅茶店を開いたものの、三日経っても客はゼロ。
そんな店に初めてやって来たのは、一人の騎士だった。
「……苦いですね」
初めての客からの感想は、まさかの一言。
けれど彼は紅茶を最後まで飲み干し、帰り際に振り返った。
「明日も、開いていますか?」
魔法は使えない。
特別な力もない。
それでも私には、紅茶がある。
魔力ゼロの店主と、紅茶を知らない異世界の人々。
一杯の紅茶から始まる、小さなお店の物語。