あらすじ
競技かるたなら、最初の一音で動ける。
けれど、自分の未来には、なかなか手を伸ばせない。
Rain Crownとして活動を始めて間もない頃、カップリング曲のセンターに抜擢された詠瀬真名(よみせまな)。初めて立った真ん中の景色に、「ここから何かが変わるかもしれない」と期待した。
しかし、その後に大きな抜擢は続かなかった。
時が経ち、Rain Crownは進化していく。
仲間たちがそれぞれの武器を磨き、自分だけの場所を築いていく中、真名はいつしか前へ出ることより、周囲を見て支えることに慣れていた。
「あのときが、私のピークだったのかな」
そんなある日、新たなコンセプト曲で、真名は久しぶりのフロントに選ばれる。
嬉しいはずなのに、自信がない。
かつてセンターだった自分と比べ、歌でもダンスでも突出していない自分が、なぜ今さら前に立つのか分からない。
だが、レッスンを重ねる中で真名は気づいていく。
選ばれなかった時間に身につけた、周囲を見る力。
メンバーの呼吸や癖を読み、次の動きを感じ取る力。
それは、読み手の一音から札を見極める競技かるたと同じ、真名だけの感覚だった。
そして彼女は、「昔センターだった自分」を再現するのではなく、今の16人をつなぎ、楽曲の世界を成立させるフロントとして、自ら前へ出ることを選ぶ。
Rain Crownが進化したからこそ、今の真名が必要になった。
これは、過去の栄光を取り戻す再起ではない。
積み重ねてきた時間を武器に変え、自分の手でもう一度、前の場所をつかむ物語。
――私は今、あの日より前にいる。