あらすじ
かつて「いずれ国を傾ける悪女となる」と占星術師に断言された赤子がいた。名は明蘭(メイラン)。宮廷魔導院はその危険な芽を摘むはずだったが、担当の大魔導士は彼女を殺さず、名も力も封じたまま市井へ逃がすことを選んだ。
十年後。明蘭は後宮の片隅で洗濯女中として息を潜めている。表向きはただの下女。だが実際は、大陸最強と謳われた魔導士の全技術を叩き込まれ、毒物・薬物の知識にかけては宮廷医官すら及ばない、生ける伝説である。
目立てば予言が疑われ、また粛清の対象になりかねない。だから明蘭は今日も俯き、洗濯籠を抱え、平凡な娘のふりをして生きていくつもりだった――後宮で相次ぐ原因不明の頓死さえ、見て見ぬふりができれば。
だが、次に倒れたのは彼女が密かに恩を感じていた老女官だった。毒か、呪いか、それとも別の何か。放っておけば、いずれ自分の身にも累が及ぶ。明蘭は下女の仮面の下に隠していた薬箱と杖を、静かに取り出す。
「目立たず、騒がず、しかし誰も死なせない」をモットーに、明蘭は宮廷の闇に潜む謎へと足を踏み入れる。そこに、彼女の正体に気づき始めた皇太子・凌牙(リョウガ)の視線が絡みつき――地味に生きたかった最強女中の、後宮サバイバルが幕を開ける。