あらすじ

高校三年の夏。 篠宮美月には、ずっと好きだった人がいた。 同級生の一ノ瀬湊。 いつも近くにいて、くだらない話をして、放課後には一緒に帰ることもあった。 けれど、美月がようやく想いを伝えようと決めたその直前、湊は突然転校してしまう。 好きだと言えなかった。 振られたわけでもない。 付き合っていたわけでもない。 だから、失恋したとさえ言えなかった。 それから十年。 二十八歳になった美月は、転職先で思いがけない人物と再会する。 新しい上司として現れたのは――忘れたことなど一度もなかった、一ノ瀬湊だった。 昔より大人びた横顔。 落ち着いた声。 仕事では冷静で、誰に対しても必要以上に踏み込まない。 十年も経ったのだから、もう何とも思わない。 そう自分に言い聞かせる美月に、湊は何でもないことのように言った。 「俺たち、恋人未満だったよな」 その言葉に、美月の胸は大きく揺れる。 ――違う。 恋人未満ですらなかった。 私が一人で、あなたを好きだっただけ。 湊のそばには、美人で仕事のできる部下・西園寺香澄がいる。 一方、美月にも優しく寄り添ってくれる同僚・橘颯真が現れ、新しい恋へ進もうと背中を押してくれる。 今度こそ、湊を忘れよう。 そう思うのに――。 「そいつと付き合うの?」 「一ノ瀬さんには関係ありません」 「……関係ないって言われると、思ったより腹立つな」 どうして、今さらそんな顔をするの。 どうして十年前には言ってくれなかった言葉を、今になってくれるの。 やがて美月は知る。 十年前、湊が突然姿を消した本当の理由。 そして、あの夏に言えなかった言葉を抱えていたのは、美月だけではなかったことを。 別れた記憶もない。 始まった記憶さえない。 それなのに、十年間ずっと忘れられなかった人。 名前のつかなかった初恋が、十年越しにもう一度動き出す。 これは、失恋することさえできなかった二人が、 ようやく「恋人未満」の続きを始める物語。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
エブリスタ
エブリスタ2026/09/24
  • 現在の作品失恋未満の、あの人