あらすじ
金沢のあるマンションで、娘の凛と暮らす雪代梓。
夫を亡くしてから十五年。
母としての日々を大切にしながら、穏やかな暮らしを続けていた。
そんなある日、隣の部屋に一人の男が越してくる。
名は、忍。
挨拶を交わすだけだった隣人は、ある小さな出来事をきっかけに、梓の食卓へ座るようになる。
料理を分け、器を返し、廊下ですれ違い、言葉を交わす。
やがて二人の間には、ベランダを隔てた短い夜の時間が生まれていく。
それは、恋と呼ぶにはあまりにも静かだった。
けれど、何気ない一言や、返される器、交わされる酒が、少しずつ二人の距離を変えていく。
母として生きること。
亡き夫への想い。
自分自身のための時間。
静かな日々の中で、梓が長く守ってきたものが、少しずつ揺らぎ始める。
これは、恋が始まる瞬間ではなく、
恋になってしまうまでの時間を描いた、大人の恋愛譚。