あらすじ
花崎透旋(はなさきとうせん)という男がいる。
人は彼を崇めている。
綺麗だ。
芸術だ。
まるで精巧な人形だ。
現代に舞い降りた天使。
この世のものとは思えない美貌。
繊細な指先は、旋律を奏でるために神が与えたものだろう――。
――なんて馬鹿馬鹿しい!
戸羽美歌(とばよしか)は今すぐにでも鞄を壁に投げ付け、教室中の机と椅子をすべて蹴り飛ばし、目の前の気持ち悪い集団を散らして暴れ回りたいくらいだった。
美歌にとって透旋は、神様でも天使でもない。
幼い頃は鼻水を垂らしていた、ちょっと変で、泣き虫で、ひどく面倒くさいただの幼馴染みだ。
けれど周囲はそう思わない。
透旋へのお願いも、贈り物も、相談も、すべてなぜか美歌のところへやってくる。
いつしか美歌は「花崎透旋の幼馴染み」ではなく、
彼と人々を繋ぐための世話役になっていた。
そして、十五年近く積み重なった我慢がついに限界を迎える。
「私、透旋と――出会う前に、戻りたい……」
これは、神に選ばれたとまで言われる男の子が、
自分をただの人間として扱ってくれていた女の子に、
生まれて初めて――愛想を尽かされる話。