あらすじ
「大丈夫。君達なら、いつかきっとこの迷宮を踏破できる。……僕は、ここまでだ」
無能と蔑まれ、パーティのお荷物だった僕は、最後の探索で仲間を守り、災厄を道連れに自爆した。
――そうして僕は、死んだ。
はずだった。
三年後。僕は迷宮の底で、めちゃくちゃ元気に店番をしていた。
人も魔物も駆け込んでくる、迷宮の底の駆け込み寺。逃げてきた者は誰でも助けていたら、いつのまにか傘下も増えてきた。相棒は、かつて僕が道連れにしたはずの伝説の吸血鬼・マリ。なぜか僕を「マスター」と慕う彼女は、ちょっとばかり僕への想いが重い。
無能だったはずの僕の力は、今や迷宮では誰にも負けない。指一本触れず、地形を読むだけで、上位の探索者すら翻弄できる。
だから今日も、攫われた魔物の子を助けに行くだけの、いつもの仕事のはずだった。
――僕は吸血鬼の力を継いでいる。鏡にも写真にも写らない。だから顔がバレる心配なんてない。そう思っていたのに。
「マスター、これに写っておりましたよ!」
……なぜか、僕の一部始終は全世界に生配信されていた。同時接続、二十三万。
僕を切ろうとした元仲間たちは、誰かに追い立てられた末に、勝手に自滅していくらしい。地上では、僕の犠牲に囚われて泣いている子がいるらしい。
でも僕は、そんなことは何も知らない。
その子の時計を止めたのが、他ならぬ僕だということも。
無自覚な元・無能が、迷宮の底で気ままに、けれど勝手に伝説になっていく。
止まったままの時計が動き出すまでの――すれ違い経営譚。