あらすじ
「羊臭い令嬢など、次期王妃にふさわしくない」
王太子ジェラルドから、大勢の貴族が見守る中で婚約破棄を告げられた辺境伯令嬢メルディア。しかし彼女は嘆くどころか、心の中でそっとガッツポーズ。
(あ、これ完全にホワイト職場に戻れるやつだ)
前世で過労死するまで牧場を回していた元社畜の彼女にとって、王都の社交界より、故郷の「朝霧の丘」で羊を追う日々こそが本当の居場所だったのです。
『野蛮』『田舎娘』『羊臭い令嬢』――そう嘲笑されてきた彼女には、誰も知らない秘密がありました。
ホルストレム家が代々治める北の果ての丘。そこに立ちこめる『聖なる朝霧』こそが、魔獣領を封じる国境結界の本体。そして、その霧を生み出すのは、丘で放牧される『霧羊』たちの呼気だったのです。
羊を正しい順路で導き、霧を編み直す『霧編みの羊飼い』。今それができるのは、メルディアただ一人。
前世の牧場経営と獣医の知識が、神聖な技能と恐ろしいほど噛み合っていたことに、彼女自身も無自覚でした。
「では、朝霧の丘へ帰らせていただきますわ」
嘲笑を背に王都を去り、愛する羊たちのもとへ帰った彼女を待っていたのは、変わらぬ温もりと――やがて明かされる、千年前の精霊との契約、そして国境結界のさらなる秘密でした。
働きたくなかった場所から、働きたい場所へ。
心穏やかなスローライフと、隠された使命。羊飼い令嬢の新しい物語が、静かに幕を開けます。