あらすじ
「なぁ、うちらあの夏、誰と遊んどったっけ?」
東京の映像制作会社でアシスタントディレクターとして働き、日々の忙しさに心を摩耗させていた海埜奏。
ある夜、地元の幼なじみである慧、勿忘とのグループチャットで「十年前の秘密基地の場所」について話が及ぶ。
「山の川辺だったろ」
「神社の裏やろ」
「ううん、竹林の中だよ」
同じ夏を、同じ時間を一緒に過ごしたはずなのに、全員の記憶が全く噛み合わない。
さらに、当時撮った唯一の写真の端には、誰も見覚えのない【向日葵柄のワンピース】の裾が写り込んでいた――。
胸をえぐられるような焦燥感に突き動かされ、奏は十年ぶりに故郷・龍水村へ有給帰省する。秘密基地の跡地で見つかった、龍の鱗のような形をしたガラスの髪飾り。
公文書に残された、誰も記憶にない「十年前の壊滅的な土砂崩れ」の公式記録。
そして、村に伝わる水の神様【キミト】の名を口にした瞬間、奏の脳裏に失われた初恋の記憶が濁流となって蘇る。
なぜ僕たちは、あれほど大切だった彼女のことを丸ごと忘れてしまっていたのか?夏の終わりの祭りの夜、隠された世界の嘘と、あまりにも切ない奇跡の代償が明かされる。