あらすじ
「心でしか見ることのできない本当の美しさが、君のインスタグラムには溢れているね――」
時は西暦二〇二六年、秋。
東京の中堅商社で海外貿易のロジスティクスを冷徹に管理する、四十六歳のバツイチ、中井タカコ。現代の激しい物価高や成果主義の欺瞞に疲れ果てた彼女は、気分転換にと、東山の最高級ホテル、京都ウェスティンホテルに泊まっていました。
大理石の床に佇むクラシカルなねこ足のバスタブに身を沈め、お湯の温もりに包まれながらスマートフォンを開くタカコ。そこには、清水寺の紅葉、シックな着物姿、祇園の葛切り。
タカコのスマートフォンに届いたのは、自称・フランス人医師、ピエールからの流麗なフランス語のダイレクトメッセージ(DM)でした。
『Bonjour, Mademoiselle... 君の投稿している素敵な写真の数々に見とれてしまったよ。Ma rose... Le plus important est invisible pour les yeux.(僕のバラ、大切なものは目に見えないんだ)』
いきなり金を要求する下品な国際詐欺なら即座にブロックするはずのタカコでしたが、贅沢なルームサービスに舌鼓を打ちながら、完璧な発音のフランス語で囁かれる甘美な愛の往復、そして最先端のAIディープフェイク動画通話の罠へと、確実に絡め取られていきます。やがてピエールは「二人の将来のためにパリの資産を送る、彼女の蓄えを根こそぎ奪い去る完璧な嘘のドラマ(国際ロマンス詐欺)を仕掛けてくるのです。
「嬉し涙のぬくもり」に触れた瞬間、タカコの頭脳に冷徹な稲妻が走ります。
「画面の嘘には騙されない。本当に大切なものは、目に見えないこの本物の人間味だ――」
自分を偽りのドラマで閉じ込めようとした欺瞞を、彼女は自らの知性(おんなの意地)で叩き割る。現代の薄汚い詐欺を、暴いていく。