あらすじ
就職活動に疲れ、恋人にも振られた大学四年生の僕は、SNSで見かけた「死ぬまでに一度は見ておきたい景色」に惹かれ、白根山の宿で一か月だけ住み込みのアルバイトを始める。
そこで出会ったのは、霧の中にひとり佇んでいた不思議な女性だた。
荷物もスマホも持たず、どこから来たのかも話さない。
宿のオーナーの計らいで、彼女も同じ宿で働くことになる。
温泉まんじゅうが大好きで、硫黄の匂いを「大地が生きている匂い」と笑う。
その一方で、人間の当たり前を知らない彼女は、ときどき妙なことを口にする。
「八十年しか生きられないのに、どうして嫌なことにそんなに時間を使うの?」
そして、彼女は最初から決めていた。
「次の満月になったら、私はここを旅立つ」
記憶を失っているのか。何か事情を抱えているのか。
放っておけなかったはずなのに、一緒に過ごすうちに、僕は彼女を行かせたくないと思うようになる。
月が満ちるまで、あとわずか。
彼女はいったい、どこから来たのか。
そして次の満月に、どこへ帰るのか。
これは、人生から少し逃げた青年と、
この世界を初めて知る彼女が過ごした、
たったひと月の恋の物語。