あらすじ
宝仙寺に入山して三ヶ月。三十二歳の私――リーダー常住は、逃げ場のない檻の中にいた。
入山当初に教えを授けてくれた三人の先輩は、すでに卒業した。最後まで残った二十一歳のサブリーダーは、物覚えの悪い私に「一週間前に教えたこと、まだできないの?」と冷たく言い放ち、去っていった。その言葉は、夜な夜な三匹の猫のぬいぐるみを抱いて泣く私の胸に、深く突き刺さったままだった。
そんな私の前に、二人の男が現れる。
一人は、三十八歳の常住。穏やかで、誰に言われるでもなく寺の空気を整えていく、謎の多い男。
そしてもう一人――五十代半ばの体験者、安岡。
初日から、畳の上で無防備に爆睡する私の醜態を、静かに見守っていた男。怪我をした私の足を、暗闇の中で手際よく手当てし、名前を覚えられない私に「名前なんて、覚える必要はありませんよ」とさらりと言ってのけた。
「ファーストペンギン」という一言で、私の喉を開かせた安岡。
その七日間で、私は自分の「声」を取り戻していく。
これは、怪物に出会った一人の女性が、自分自身を立て直すまでの物語。